幸せをめぐる冒険  生者は待ち、死者は燃える

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生者は待ち、死者は燃える

 2009-01-03
インドに行くと人生観が変わる。
そんなことを聞いて、どんなもんか行ってやろうと訪れたのがインドだった。
そんなに人生観なんて変わらないよ、とタカをくくっていた僕だったけどインドの地に足をつけた瞬間、その思いはアッサリと消え去ってしまった。
とは言ったものの、人生観が崩れる、というほどの衝撃まではなかった。
それはチベットで色々見た後に来たせいもあり、日本を出て2ヶ月近く経っていたため、あるものをあるままに受け入れるようになっていたせいかもしれない。

2001_india01 結構パワーが必要です
インドは好きになる人と、嫌いになる人の差がはっきりする。
僕は好きになった、としか聞いたことがないけど(そういう人としか話してないだけ?)好きになる人は女の子が多い。

インドについて書かれている本や、旅行記は多い。
たった3週間くらいしかいなかった僕が、ここで改めて書くことなんてほとんどないくらいだ。
リキシャに乗って、こいで、ガンジス川を眺めて。
おそらく想像するインドらしい風景というのは、ガンジス川の人々の生活や、町中に居座る牛や、迷路のような街並みだろう。
有名なのはガンジス川沿いの、死を待つ人たちの建物だったり、火葬場ではないだろうか。

2001_india02 ガンジス川

2001_india03 宿近くの街並み
僕もそんな話を聞いて、好奇心から見に行く行者の一人だった。
川沿いにはガートと呼ばれる沐浴場がいくつもあり、そのうちの一箇所ではいつも死体が焼かれていた。見に行くまでは「見てはいけないもの」、「怖い」という感覚の方が強かった。

火葬場はガートの中でそこだけ少し広い正方形の石場になっていて、近くには薪が積まれていて、いくつかの死体と思われるものが並べられている。
そこで死体を焼く男は非常にテキパキと、流れ作業をするかのように死体を処理していく。
僕が見始めた時の死体は、既に人の形を留めてなく、黒い塊となってパチパチと、メシメシと、乾いた音を響かせている。
次の瞬間、男は手に持つ棒を何のためらいもなく黒い塊に振り降ろす。
ゴツッとした音と共に、周りにはどこの骨か分からない破片が飛び散り、棒を持ちあげると頭蓋骨なのか、丸い大きな塊が僕の近くに転がってくる。
それはもう、少し前まで人の形をしていたとは思えず、何がなんだか分からないが目を離すことができなかった。
それはヒトでもなく、モノでもなく、人があの世へ行く間の一時的な物体だった。

男は無表情なまま、何度か棒で物体を細かしくた後、小さくなった破片をガンジス川へと流していく。バーベキューの後、灰になりかけた炭に水をかけて出る音と同じ音がしていた。

人が焼けていく姿、それを熱で歪む空気を隔てて見ていると、ここでは人が死ぬということも生活の一つなんだなと思った。それは当り前のことで、それまで人を葬るということは特別で厳かなものと思っていたけど、本当は目を背けて何も考えていなかっただけなのだろう。
地球には60億の人間がいて、100年もすれば60億人の死体ができる。
死体を燃やし、河に流し、そして誰かが生まれてくる。
そんなことを思うと、輪廻転生、チベットのマニ車を思い出す。
そうなのだ。ここインドが仏教の発祥の地なのだ。

死体の煙を吸い、熱で火照った体を冷やそうとガートを離れると、布に覆われた塊を担いで人ごみを掻き分けて進んでくる男たちとすれ違う。
あの日は何体の死体が焼かれたのだろう。

死を待つ人たちの建物にも行った。
そこにいる人たちは、行者などからバクシーシ(寄付)を集めて目の前のガートで焼かれるための薪を買うそうだ。
灰となってガンジス川に流されることが幸せな最後、なのだろうか。

人が焼かれ、河に流され、そしてまた人が焼かれる。
その光景の1コマ1コマは、今でも言葉の通り脳裏に焼き付いている。
そんな光景と、価値観をごく自然に受け入れられるようになっていると感じたとき、あぁ僕は今をしているんだなと思う。

2001_india22 ガンジス川の朝日
ガンジス川の朝は早い。

2001_india04 様になるね

2001_india05 沐浴する人々
チャイのような色をした河の水で、人は何でもする。

2001_india06 犬も様になるね
犬もいる。日本の野良犬もインドに行ったら人生観が崩れるのだろうか。

インドにしばらくいると、行者の顔は変わってくる。
始めは驚きと戸惑いを隠せない顔が、一通りバラナシという街を見て理解すると、穏やかな顔になっていく。
宿に帰ると、今日もまたこの街に着いた日本人行者がいた。

「こんにちわ。」

声をかけると、その行者は怪訝そうな顔をして会釈をした。
その顔は、数日前の僕の顔だった。
そして僕の顔もまた、彼の顔になるのだろう。

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